MVおまけ話①

2022/3/9(火) 文:ハユル

2月に公開したMUSIC VIDEO『ブーツ!ブーツ!ブーツ!』
まだまだ見てほしいので、おまけ話をば

※オフショット写真は浜村晴奈による

撮影は昨年の12月、撮影場所は西宮だ。

撮影場所を選ぶのには苦労した。
この曲の「荒野」のイメージに合うような場所を探したが、まさに荒野!というような候補地はどこも遠い・観光客が多い・機材の運搬が難しい・そもそも撮影許可が降りなそう、などの理由で却下された。

困った所に思いついたのが、地元西宮の甲山(かぶとやま)である。
あそこならバスで麓まで行けるし、人も少ない。撮影日の夜には毎週恒例の西宮でのライブ「HAPPY WEDNESDAY」がある予定だったため、移動の面でもちょうど良いという話になった。オレは甲山が好きだから、是非その頂上で撮ってみたいとも思った。

甲山は西宮のシンボル(とオレ達は思っている)で、西宮の町の至る所からその姿を見つけることができる。名前の由来は諸説あるが、兜のようにぽこっとかわいい形が路地から見え隠れする。町を歩きながら不意に良いスポットを見つけると嬉しくなる。

だが愛らしいことに、麓に着くとその小ささに肩透かしを食らう。電車に乗って西宮に帰ってくるとき、あんなにも誇らしげに出迎えてくれるのに…!

山の麓の入り口には、神呪寺(かんのんじ)という寺がある。その寺の向かいには、お婆ちゃんと猫がいる茶店があり、ぜんざいを食べたりできる。

神呪寺の階段を登り、西宮全体を見渡せる展望台の脇を抜けていくと、甲山への入り口がある。登山道はジグザクの階段になっており、わずか10分ほどであっけなく頂上に着いてしまう。

そして、これは甲山の最も愛らしいポイントであるが、頂上はなんと…「グラウンド」になっている。

もちろん小学校のグラウンドのように整備されたものではない訳だが、不思議な楕円形の平地が広がっており、それはグラウンドと呼ぶのが一番しっくりくる。

これが本当に馬鹿らしくて最高だ。ロックンロールだ。

更にロックンロールを加速させているのが、グラウンドに突き刺さっている立て看板。弥生時代の青銅器が出土したと書いてある。つまりこの山の頂上で祭りが行われていたということだ。かなりプリミティヴである。

そういう訳で、甲山はロックンロールのビデオを撮るにはピッタリの山だった。しかし、本当に曲のイメージにあった映像が撮れるのかについては少し不安が残っていた。甲山の愛らしい部分が出てしまうのではないか?

撮影当日、重いドラムセットを持って山頂に着くと、皆んなヘトヘトになって座り込んだ。甲山が小さい山でよかったと思った。頂上は相変わらずのグラウンドだ。グラウンドをぐるっと囲むように木が生えている。落ち葉がたくさん落ちていた。

登山客が積み上げていった岩(ケルンと言うらしい)がごろごろ転がっている場所があり、そこにドラムセットを置いてみると非常にハマった。これはもしかしたらいけるかもしれないと、撮影の準備を開始した。

セッティングが出来た所で一度試し撮りをしてみた。撮ってもらった映像を見ると、甲山とは思えない荒涼としたイメージがそこに写っていた!オレ達は小躍りしてこれは良い映像になるぞと喜んだ。監督のえす郎君は見事な腕前で、甲山の愛らしさを抑え込みながら甲山のクールさを引き出していた。

撮影はとても楽しく進んだ。途中、甲山に登りにきたお爺さんやお婆さんを見物客に迎えながら演奏したりした。ベースのビデオは何度も石に躓き流血した。

弥生時代の人たちは、オレ達が2021年にここでロックンロールのビデオを撮ることを想像しただろうか?今から2000年後、次は何が行われるのだろうか?

いつかアンプもスピーカーも持ち込んで、ここでぶっぱなしてみたい。

撮影を終えて、最後は崩したケルンをもう一度積み上げて山を降りた。

このMVを見る上では甲山で撮影したことは全くもってどうでも良いことで、おまけ話でした。(終わり)